そういえば完結したのに感想描いてなかったなと思い出して書くに至る
なんかさらっと続編の昴と彗星が連載開始したしこのままだとふらっと完結したことを忘れてしまいそう
ときに、車には様々な文脈が載せられる
色、形、メーカー、スペック、ブランド、などなどなど。車とは単に道具としてみることもできるし、ファッションとしても見ることができる
とある声優がラジオで車を「高校生における筆箱」と例えていたことがあった。これはなかなか的を得ている表現だと思っていて、大人にとって(そして車を選択できる立場において)、車を選ぶということは自己表現なのである
MFゴーストでは(というより事実上前作である頭文字Dから続いて)その文脈は自覚的に描かれている
つまるところ「どうしてその車を選んだのか」「どうしてその車に乗り続けるのか」という話である
この部分では車のスペックやメーカー・ブランドの知識があると楽しめるし、キャラクターのセリフ等での信頼感が見えてくる
付け加えると、こうした車のスペックやプライドは、ほぼイコールでドライバーのスペックやプライドに結びつく。これは自動車特有の文脈で、高級車に乗っていると気が大きくなるアレである。書き方が悪いが、しかしレースの舞台では車両のスペックはドライバーの自信や技術に直結する。故にドライバーたちは自分の車選びに誇りを持っているし、こだわりも現れる
そんな中でプラスして作中ではアイデンティティの話が行われる
もともと主人公の片桐夏向(カナタ・リヴィントン)はイギリス出身であり、優れたドライバーであり、そして日本にもルーツを持つ。しかし、最愛の母親をなくし、自分の手からルーツの1つが離れて足元が揺らいでしまう
スタートラインから彼の持つアイデンティティの喪失から始まる
母親の日本での足跡を知りたい、日本にいる父親を探したい。そういった動機は彼のアイデンティティの喪失をよく表している
主人公が86を自身のマシンとして選ぶのも外からの影響であり、本人の能動的な選択ではないのも注目すべきだろう
外から彼を見る人物たちは(読者も含め)、彼の師の86トレノに重ねて彼を見るが、彼自身は吊るしの86という白いキャンバスのような存在としてみている
じきに86にはいくつかの手が入り、戦闘力を高めていくわけだが、これに連動するように彼は少しずつ自分のアイデンティティを獲得していく
それは彼の師も味わった「人の選んだ車が自分の車になっていく」という内面化であり、その最たるものはヒロインからもらったお守りなのであろう
レースが進むにつれ、新たな人間関係やライバルとの切磋琢磨で自分の中にある意識や感情に気づいていき、最終的に窮地に立たされながらも自己表現としてのドライビングと、他を圧倒するテクニックを披露することになるのは彼の成長と車の成長がリンクした展開だった
様々な枷が外れ、自分を客観視し、自立を始め、自己の意識で欲する欲望を認識し、様々な経験を経て主人公の成長物語をしっかり描いている
主人公と同時に、この作中では意図的に「若い世代」として描かれているキャラクターが何名かいる
この「若い世代」の成長、というより彼らが主人公から様々な感情を向けられ、同時に主人公が他人に与える影響が描写されている
これは同年代のライバルたちも自身の中のアイデンティティを確立すべく足掻く様子にリンクしており、外からの影響を受けて同時に彼らも成長しているのだ
そして成長できるのは、外からの影響をモロに受けて自分のあり方を変えられるのは若い世代だけなのだということなのだろう
全体的に若者の成長と変化に着目したいい作品だったが、欠点はなくもない
例えばMFGのエンジェルズとして出てくる女性たちの描写などが明らかに前時代的である。女性をトロフィー扱いしているところとか
ただ前時代的である点で言えば、エンジン車のみでクローズドとはいえ本来公道として使われる道でレースをするという点を加味すれば、ある程度の前時代的なポイントは意図的なものとも取れるだろう
わざとらしい前時代な描写も一種の車のノスタルジー文化の一端と言えなくもない(とはいえ多少のチグハグ感は否めないが
なおアニメ版はそのあたりがもっと強調されており、ユーロビートや3DCGなど、すでに陳腐化した技術を頭文字Dに重ねるように利用しているのもそういった時代遅れ感、前時代的の自覚的表現なのだと思われる
若者と自動車の関係は、総じて移動の自由、自分の空間を得る点に収束しがちである
確かに自動車やバイクは諸々の縛りを感じる若者が自由を手にする象徴としてよく描かれる
里帰りのシーンのように移動の自由の点もあったが、本作はそのうえでもっと自動車がアイデンティティと自己表現の対象になるという点に絞って描かれたという点では見事だったのではなかろうか
車とは自己表現なのだというのは、車好きであれば大切なことであると理解しておきたいものである
